■ 「恋」 を、生存本能で考える(2/2)






ふきくん の
あのパソコンの中には、

いろいろと 「重要なデータ」 が
入っているのでしょうね?





「え…? えぇ、まぁ…」






ふき は、突然の質問に
首をひねりながらも、

そんなふうに答えました。





その 「データ」 なのですが…

あのパソコンが壊れてしまったら、
もう二度と使えない

ものなのですか?





え…? い、いえ、
そんな事は ないですよ?


僕も、万が一 故障した
ときのことを考えて、

定期的に、外付けハードディスクに
データをまるまるコピー
して
バックアップを取っていますから…





最悪、今のパソコンが
突然 壊れてしまっても、

バックアップしたデータを元に、
「復旧」 することができる
んです。


長年 使ってきた大事なデータが
消失してしまったら、
大参事 ですから…





それを聞いた ミューラー は、
先ほど以上にニッコリとし、

ふきに、こう 確認したのでした。




なるほど。

つまり、仮に今のパソコンが
死んでしまっても、

ふきくん の積み上げてきたデータ」 は、
新しいパソコンの中で
生き続けることができる…


と 言うことなのですね。



そ、そうで…





「そうです」 と 言いかけた ふき の目が、

みるみる見開かれていきました。



かみね も、
ミューラー の言わんとしている
ことに気づいたようで、

両方の前足を口の前に持ってきて、
息をのみました。


  






大切なファイルを
「コピー」 することで、

パソコンという入れ物が替わっても、

過去から積み上げられてきたデータは、
未来に引き継がれていく…





それは まるで、

「恋」 をし、結婚をした
生物の DNA が、

生まれてくる子供の中に、
自らを 「コピー」 することで、

はるか昔から積み上げられてきた
『生存の知識』 を、

親から子へ、子から孫へ… と、

未来に引き継いでいく


ようなものでは ないでしょうか?







いやはや…

驚くべきは、DNA の超性能 です。



本来なら、その生物が
死んでしまった時点で失われる
「自分を生成するための情報」 を、

その 「コピー(子孫)」 を作ることで、
自らの完全消滅から まぬがれる
とは…




DNA の、恐ろしいまでの
『 生存への執念 』



ふきは そこに、

畏敬(いけい)すら
感じるのでした。









思えば、自分の この体の中には、

はるか はるか はるか 昔の、
顔も知らない ご先祖様たちが
積み上げてきてくれた

『生存のための知識』
込められている
のです。



そして自分も いつか、
異性への 「恋」 を発端に、

はるか はるか はるか 未来の、
顔も知らない子供たちに、

その 『生存のための知識』
受け渡していく
のでしょう…





しかも、ふき が 以前
どこかで聞いた話によると、

DNA は 「そのまま単体でコピー」
したものよりも、

異性と 「結婚」 して
2つの DNA を混ぜた もののほうが、

多様性が出て、生存確率が
高まりやすくなる
のだとか…






なるほど、ミューラー の 言う通りです。


ある意味 「恋」 こそが、

DNA が見出した最高の、
『自己保存』 能力




DNA の最も恐れる 「自己の消滅」
可能なかぎり回避するための、

唯一無二の大発明

言えるかもしれません…










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