■ 月夜のネック(5/5)





ネック は、
ちょっと驚いたように、

ふき のほうを
見上げましたが…






しばらくすると、
また 前を向いて、

少し 安心したような
ため息を もらしたのでした。







ふき


長く生きることだけが、

「しあわせ」や
「生きる意味」って
わけじゃないよ?






ふきは もう、

何も言えませんでした。



そして、
自分の体が、

小さく ガタガタと
震えている
ことに
気がつきました。






人は、

「本当に大切なものを失う」
と 実感したとき、

「涙」ではなく、

心の底からの「震え」が
わきあがるのだ
と、


ふき は、今、

初めて 知ったのでした。






ふき

あたし、この家に来て
本当に良かったよ。



イヤミじゃなく ね。





そう言って ネック は、

ふき の 膝の上から、

ガラスの向こうの
美しい月を、

しずかに
見上げたのでした。





懐かしいねぇ… ふき

「あの頃」を 思い出すよ…




そんなことを、

ふき に 聞こえないような
小声で つぶやきながら…






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