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第11章『人間は、地球最後の「はかない希望」』→ 『輪廻転生(りんねてんしょう)』の 正体 |
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あれ… そういえば… | |
ここで ふき は、 ハタと 気がつきました。 | |
でも それじゃあ、 さっき ネック さんの 言っていた、 『 お父さんと 同じものになれる 』 っていうのは、 結局 どういう 意味なの?? | |
ネック は、 ふき の 質問には答えず、 「よろしくね」 という感じに ミューラー の 顔を 見ました。 トンビ紳士は、 ニッコリと ほほえみます。 | |
ネックさん の おっしゃられる通り、 私たち 生き物は ある意味、 死後は 皆、 『同じものになる』 のです。 | |
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先ほど、 『輪廻転生』 (りんね てんしょう) という 概念について お話ししましたよね? | |
ふき と かみね が うなずきました。 | |
「輪廻転生」は あくまで『概念』ですが… 実は この世界では 実際に、さまざまな 生物との間で、 グルグルとした「循環」が 行われている のです。 | |
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そ、それって、 『霊』の !?? | |
ギョッとした ふき に、 ミューラー が ほえみながら、 「いえいえ」と 首を振りました。 | |
分かりやすい所では、 『食物連鎖』 (しょくもつ れんさ) などが そうですよね。 | |
『食物連鎖』。 その言葉なら、 ふき も 知っています。 | |
私たち生物が、 死んでしまう と… その死体は、 「微生物」たちによって 分解 されます。 微生物たちは、 その土地の土を 豊かにします から、 植物も よく 育つようになります。 | |
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すると 当然、 そこで暮らす 「草食系の動物」たち も、 豊富な食べ物の おかげで 豊かな暮らしができる ようになり… その 草食動物たちを 食べて生きている 「肉食動物」たち にも、 同様の恩恵が もたらされます。 | |
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このように 「私たち生物の命」は、 それが 亡くなることで、 『微生物の栄養』となって 地面に拡散 し… 別の生物が 生きていくための 「素」となることが できる のです。 | |
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あたしらの「命」が、 こまかーく うすーく 広がって、 『別の生き物の中に 入っていく』感じだね? | |
ミューラー が、 ニッコリと うなずきました。 | |
その通りです。 単なる「概念」ではなく 本当に、 『私たちの命は、 この世界を 循環している』 わけです。 | |
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自分の「体」だった物 が、 微生物の栄養となり… 大地に しみこみ… 草木となって… | |
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結果的に、 さまざまな 生物たちにとっての 「食べ物」となり、 『 その生物の 体の一部と なっていく 』 わけですから… | |
ふき自身、 「食物連鎖」については 学校で習って 知っていたものの、 あの頃は まだ子供で、 『いつか 自分自身も、 他の生物の 食べ物になる』 という可能性については 考えたことも ありませんでしたが… こうして 大人になり、 あと 半世紀以内 ぐらいには、 自分も「微生物たち によって分解」され、 『他の生物たちの体を 作っていくのだ』… と思うと、 怖いような、 それでいて ちょっと 誇らしいような 不思議な気持ち に なるのでした。 | |
さて… | |
ここで ミューラー が、 あらたまって 話を切り出しました。 | |
「食物連鎖」は、 われわれの目にも 見えやすい、 大きな視点による 現象ですが… これは つまり、 『地球上で、分子や原子の やり取りが されている』 という事になります。 | |
「分子や原子」… 「分子」「原子」についても、 もちろん 知っています。 私たち生物や、 空気 や 水 や 石 など、 さまざまな物体 は もちろんのこと… それこそ、 この宇宙に存在する すべての物 の 素に なっている、 『こまかいツブ』 のことです。 | |
「私たちの命」… 「私たちの体」は、 死ぬことで 分解され、 この『分子や原子』に 還(かえ)っていきます。 | |
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そして、 他の生物の食べ物 に なるのは もちろん、 ときには、 この世を構成している 気体・水・石など、 多種多様な物体の「材料」 にも なっていきます。 | |
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今までは 「誰かの体」を構成していた 分子・原子が… この世界の いたるところに 広がっていく わけです。 | |
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道ばたの 石の中 に、 包まれているかも しれません… 流れていく 風や 水の中 に、 ふくまれているかも しれません… | |
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大地に広がる 草や木々 は もちろん、 今 私たちが こうして住んでいる お家や家具の木材を 育てた かしれません… | |
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かつては 『誰かの体』だった 分子・原子 は、 その姿を変えつつも、 今 この瞬間も、 地球の どこかに、 確実に存在している のです。 | |
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ふき は、 話の 壮大さ に 頭がクラクラしつつも、 自分のいるリビングを 見回しました。 すると、 自分の周りにある、 今まで 単なる 「家具」や「品物」 でしか なかった物の 1つ1つ に、 『ものすごく たくさんの 誰かや、動物たちの命』 が 宿っている ように 見えてきたのです。 それは、 とても 不思議 な… でも、 とても あたたかい 光景 でした。 | |
僕も 死んだ後は、 長い長い年月をかけて 細かく薄く なりながら… | |
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この地球上の さまざまなものの「一部」に 『生まれ変わり』ながら… いつか、 この宇宙の彼方にまで、 広がり 散っていく のか… | |
自分は 死んだら、 『宇宙の一部』に なれる… ふき は、 生物にとって 最大の恐怖であるはずの 『死』に、 ほんの少しだけ、 不思議な安心感 を 感じるのでした。 そして、 一体、自分の周りの どこまでが 「自分の体」で、 どこからが 「他人」や「他の生物」や 「宇宙」なのか…? そんな 『境(さか)い目』すら 分からなくなるような、 むしろ そんな事、 どうでもいいような、 『この世界や宇宙との 不思議な一体感』が 自分の中に 湧いてくるのでした。 |
そんな ふき に、 すぐそばに座っていた ネック が 語りかけます。 | |
ちょっと ちょっと、ふき。 あんただけじゃないよ? この かわいらしい ネックさんの体だって、 いつか 『宇宙の 一部』に なっちゃうんだからね? | |
ネック は そう言って、 ちょっと 誇らしげに、 前足で 自分の胸を ポフポフと たたくのでした。 | |
…もちろん、 「あたしの お父さん」 もね。 | |
そう言いながら ネック は、 先ほどの ふき のように、 リビングの中を 見渡して、 小さく ほほえみました。 まるで このリビングの中に、 もう 目には見えないほど 小さな分子の1つになった 「お父さん」が、 静かに ただよって いるかのように… 全ての生物は 死ぬことで、 誰もが皆、同じ 『宇宙の一部』となって、 まざりあう… 今の ネック には それが、 とても ほんのりと、 うれしい のです。 そんな ふきたち「生物」を、 「宇宙の一部に なれない」 神さま である かみね が、 とても うらやましそうに、 愛おしそうに、 見つめるのでした… |
「霊」という存在を 信じたがる気持ち も、 結局は われわれの価値観が 『生存本能』に 縛られている 証拠の1つ かもしれません。 死んでしまったら、 私たちの「命」は 無くなってしまう のが、 「事実」であり 「自然」なのに、 それが 恐ろしいから、 寂しいから、 『実は 魂は永遠に 残っているんだ!』 と 信じこみたい… その気持ちは ある意味、 「当然」と言えるでしょう。 でも、 「自分が そう信じたい という思い」 (主観・願望)と、 『現実』(客観)とは、 まったく 別々のものです。 その事実だけは、 決して 忘れずに いてほしいものです。 |