ここまで、 自分が信じてきた 「しあわせ」 について 次々と その勘違いを指摘 されてきた ふき でしたが… 今日という今日は、 絶対の自信をもって ネック との討論に のぞむことが できる気がしていました。 なにしろ、今日のテーマは 『仕事』 。 「仕事」 は、人間が社会に直接かかわる 重大な行為 であり、 これを否定することは、 人間社会そのもの を 否定するも同じです。 『戦わずして 勝ったわ』 ふき はホクホク顔で、 ネック との討論をスタートさせました。 | |
…というわけで、 「仕事」 のすばらしさを 否定することは 人間社会そのものを 否定することなんですよ、ネックさん。 お分かりですか〜? | |
話し終わった ふき の 会心のニタニタ顔を見つめながら、 ネック と ミューラー が 顔を合わせて 「うんうん」 と うなずいています。 | |
なるほどねぇ、 よく分かったわ、ふき。 仕事をするのって、 人間にとって すごい しあわせなんだね。 | |
こともなげに 同意する ネック … | |
本当に おっしゃられる通りだと思います。 それぞれが個別に生きて、 大きな集団行動を取ることも ほとんどできない われわれ動物からすると、 人間さんたちの社会や、 それに参加する 「仕事」 という手段 には、 驚きと尊敬を感じずには おれません! | |
興奮気味に 人間社会をたたえる ミューラー。 ふき の脳裏に、 天使の鐘が鳴り響きました。 ところが… | |
つまり ふき は、 死ぬまで働き続けたいわけね? | |
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え!? | |
ネック の意外すぎる質問に、 ふき の脳内の鐘の音が停止しました。 | |
先日、貯金のお話をしたときに、ふきくんは 「人間は、生活するための資金を稼ぐには、 ほぼ一生 働き続けなければならない」 と おっしゃっておいででしたよね? 私は てっきり、 それは 「不幸なこと」 なのだと 単純に思っていたのですが… | |
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むしろ 人間さんたちは 一生 働き続けることを 「幸福」 と お感じだったのですね。 人間さんたちの自己犠牲のすばらしさは、 とても私のような 鳥ふぜいには 理解できない領域のものだと 感嘆いたしました! | |
先ほどに輪をかけて興奮し、 人間万歳 をとなえる ミューラー に、 ふき は 戸惑うばかりです。 | |
あ、いえいえいえ… できれば定年後は、 仕事なんかせずに ゆっくり過ごしたいですよ? …出来ることなら、 今すぐにでも… | |
そんな ふき の言葉に、 興奮していた ミューラー が、 キョトン顔になりました。 | |
…え? な、なぜなのでしょう?? 仕事をすることが、 イコール 社会とつながることであるなら、 そこから離れてしまったら、 それはもう 「社会人」 とは 言えないわけですよね? | |
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しかも、私の聞き違いでしょうか…? ふきくん 今、 「出来ることなら、今すぐ 仕事を辞めたい」 と… | |
急速に冷めていく ミューラー に、 ふき は、大あわてで弁明します。 | |
あ、いやいやいや! 僕も別に 「仕事なんかくだらない、やりたくない」 とは思っていないんですよ? でも、さすがに一生はキツすぎだし… | |
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そりゃ、そうよね。 死ぬまで 生きるために働き続けて、 働かなくなった途端に死んじゃうんじゃ、 あたしら動物と いっしょだわw | |
ネック が自嘲ぎみに そんなことを言いました。 | |
だけど、ウッカリ 本音が出ちゃったね〜、ふき。 「仕事は社会貢献!」 とか イバってたくせに、 『やらなくていいなら やりたくない』 て、どういう事よ? | |
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わ、私もサッパリ 意味が分かりません… | |
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この 矛盾、どう説明してくれるのよ? ほれほれほれ。 | |
ネック の執拗な追求と、 ミューラー の戸惑い顔に押されて、 ついに ふき は観念し、 2匹に白状しました。 実は自分は、今の会社には、 本当は 企画者として入社していた こと… しかし、実力不足で企画職からは はずされ、 今ではユーザーサポート業務に 回されてしまっている こと… なんとか再勉強して 企画者としてやっていきたいのだけれど、 毎日の仕事に振り回されて、 それもほとんど進んでおらず、 ただ気ばかりがアセる日々を 過ごしていること… そうした事実を1つ1つ、 2匹に語っているうちに、 今の自分の 不幸ぶり が シミジミと再確認されてきて、 『仕事に就けている自分は幸せ!』 と 確信していた当初の勢いが、 シオシオ〜… と、ふき の中で しぼんでいってしまうのでした… | |
そうだったのですか… ふきくん も大変だったのですね。 やりたくもない仕事を、 生活のためにムリヤリ… 下手したら一生、 続けなければならないとは… | |
ミューラー は しみじみと、 人間社会の難しさを かみしめているようでしたが… フッと顔を上げて、 ちょっと 照れくさそうに、 こんなことを言うのでした。 | |
ただ、鳥の私が言うのもなんですが、 私も父親として、 子供たちが巣立てるようになるまで、 毎日のように 子供たちの分まで 食べ物探しに奔走した経験がありました… 今の生活を維持するために、 好きでない仕事であったとしても 働き続けることも、 ある意味 尊い行為… と 言ってしまっては、 これは我田引水でしょうか? | |
もし 神さまというものが 実在するとしたら、 きっと今の ミューラーさん のような 御心(みこころ) の持ち主に違いない… と、 ふき は しみじみと思うのでした。 | |
前々から 怪しい怪しいとは にらんでたけど、 ようやくゲロったわね、 この ウソツキ野郎。 「俺さま 幸せ」 が 聞いてあきれるわ。 | |
もし 神さまというものが 実在するとしたら、 きっと今の ネックさん を 僕がグーで殴っても お許しくださる… と、 ふき は しみじみと思うのでした。 |