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あの… ふきくん。 お腹が すきませんか? | |
突然、ミューラー が そんなこと言い出したので、 ショックな結論を聞かされて、 茫然としていた ふき は、 仰天しました。 | |
私、前々から、 人間さんたちが食べている 『ピザ』 というものに 興味があったのです。 ネックさんの読んでいる広告の中に、 ちょうど おいしそうな ピザ屋さんのものも ありますよね。 どうでしょう? 私たちに、ピザを ご馳走していただけないでしょうか? | |
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あー、それ 賛成。 ふき みたいなバカに アレコレ教えてると、 すごい疲れて お腹へっちゃうのよね。 | |
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あたし、カラいの苦手だから、 このシーフードのやつ 希望ね。 ミューラー、 あんたも これでいいでしょ? | |
トンビ紳士は、 ニッコリと うなずきました。 | |
ふき。 ケチケチしないで、 バーンと この 大っきいの 注文しなさいよ? | |
ネック は、 自分の体長ほどもある Lサイズのピザの写真を 指差しながら、 そんなことを言って ふき をにらむのでした。 ふき は、突然の出費に 半泣きになりながら、 パーティ用のデッカいピザを 電話注文しました。 (この物語はフィクションです。 実際には、シーフードピザには、 猫や鳥の身体にとっては良くないものも一部に入っているので、 絶対に食べさせないであげてくださいね) さて… 宅配された 平べったくて大きな紙箱を ふき が テーブルの上で開けると、 トンビは、ピザの壮観に 「ほほ〜〜」 と感嘆の声をあげ、 白猫は、トッピングの シーフードの香りを フンフンかいで、 ウットリとした顔つきになりました。 | |
ところで、ふきくん? | |
ミューラーが急に ふき のほうに向き直って、 こんなことを聞いてきました。 | |
このピザ、 われわれ全員で分けたら、 どれくらいずつに なるでしょう? | |
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え!? そ、そりゃ、 3分の1ずつだから、 360度 を 3 で割って、えーと… | |
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ほんはもも、 はやひももはひよ。 | |
ネックが 「そんなもの、早い者勝ちよ」 と言いました。 早くも トッピングのエビを 口いっぱいに ほおばりながら… | |
1つあたり、120度。 扇形のようなピザを、 分け合うことになりますね。 | |
ミューラー は、 そんな ネック の姿を見て、 困ったように笑いながら、 答えを教えてくれました。 「さて、問題はここからです」 ミューラー が、 ちょっとマジメな顔つきになりました。 | |
ここに もっと人が集まって、 たとえば 10人いたとしたら、 どうなるでしょう? | |
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えーと… 1つあたり 36度。 三角定規みたいなピザに なっちゃいますよね? | |
ふき の回答に ニッコリほほえんだトンビは、 しかし続けて、こう問うたのです。 | |
では、20人 ならどうでしょう? 30人 では…? | |
そこまでに なってしまうと、 もう、「果物ナイフのような ツンツンの細ーい切れ端」 に なってしまうことでしょう。 一応 皆の口にはピザは入りますが、 とても お腹がふくれるとは思えません。 でも、ミューラー は どうして、 こんな話を始めたのでしょう?? | |
実はですね、ふきくん… このピザこそが、『市場』 なのです。 そして、その場に集まった人の数が、 「会社や店の数」 です。 もちろん、実際には ここまで均等には、 収益は分配されませんが… | |
ふき は、「あっ!」 と思い出しました。 そういえば、この たとえ話 は、 何かで 読んだか 聞いたか したことがあります。 市場に参加する者が… 仕事や商売をする者が増えれば、 それぞれの収益は どうしても下がってしまう… 皆で分けたピザが小さくなりすぎれば、 (個々人の収入が低くなりすぎれば) 皆のお腹が満たされなくなってしまう (皆の生活が立ち行かなくなってしまう) という可能性も あり得ます。 かといって、 自分が働かなければ、 自分の収入が無くなり、 生きていくこともできませんし… なんとも悲しいジレンマです。 | |
これが、私たちのような動物であれば、 エサが足りなくなって 死んでしまうものが出るなどして、 結果的にバランスが 取れていくものなのですが… 人間さんたちの社会には、 お互いに助け合い、命を尊重するという すばらしいシステムがあるため、 良くも悪くも そうしたバランス調整が 利きづらくなっているところが あるのだと思います。 | |
ふき は、ちょっともう 気軽に 『仕事ができて幸せ!』 とは 言えない気分になってきました。 | |
そういう事よ? ふき。 | |
ネック が、 いつものクールなセリフを決めました。 口いっぱいに ほおばったピザのせいで、 「ほおゆうほほよ? ふひ」 としか聞こえませんでしたが… |