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第5章『「DNAの生存本能」で「世の中」を考える』→ 「正義の物語」に 見られる、不思議な矛盾 |
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うーん… それにしても… 『 善悪 』や『 正義 』って、 そんなに アヤフヤ な ものだったのか… | |
ふき は、 今まで自分が信じてきた 「善悪」や「正義」が、 意外にも 個人的 で、 意外にも うつろいやすい ものだと知らされて、 かなり ショックを 受けてしまった ようです… そんな ふき を 気づかってか、 かみね が、 こんな質問をしました。 | |
そ、そういえば、 ふきさん が 今まで イメージしていた 『 正義 や 悪 』 って、 たとえば どんな感じのもの だったんですか? | |
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うーん、 そうだなぁ… すぐに思い浮かぶ 分かりやすい「正義」だと、 子供っぽいかもしれないけど、 テレビ や 漫画、 ゲームなんかの、 『ヒーロー』や 『勇者』かな…? | |
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で、そうした物語の 世界には 必ず、 人々を独裁したり、 他の国を乗っ取ろうとしたり、 地球を滅ぼそうとする、 『悪の軍団』や『魔王』、 『宇宙からの侵略者』や 『巨大生物』なんかが いるんだ… | |
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なるほど。 人々の生存確率を 下げようとする、 『分かりやすい巨大な 悪』と、 それに真っ向から 立ち向かう事で、 『人々の生存確率を 上げてようとする 正義』 とが、存在するわけですね。 実に 明確な関係 と いえます。 | |
ミューラー が、 感心するように うなずきました。 | |
分かりやすい… と言えば、 「昔話」の 中の 『正義・悪』も、 単純で 分かりやすく なってるよね。 | |
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『桃太郎』なら、 人々から金品を奪う鬼が「悪」で、 それを取り返す桃太郎が「正義」… 『カチカチ山』では、 おばあさんに悪事をはたらいた タヌキが「悪」で、 それをこらしめるウサギが「正義」… 『さるかに合戦』だと、 母ガニから柿を奪った上に 殺してしまったサルが「悪」で、 敵討ちをした 子ガニ・栗・ハチ・臼・牛のフンが 「正義」に なるんだろうなぁ… | |
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こんな感じの 物語を聞いて 育った影響かなぁ… 僕の中では、 『 正義や悪ってものは、 白黒が すごく ハッキリしたもの 』 っていう イメージが すごく強く あった んだ。 | |
そんな ふき の 説明を 聞いているうちに、 興奮してきた ミューラー は、 何度も何度も、 力強く うなずくのでした。 | |
う〜ん、なるほど! これは、実に 実に 興味深いですね… | |
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そ、そんなに 興味深いですか? ミューラーさん。 | |
ふきは、 トンビ紳士の 興奮ぶりに、 ちょっと うろたえて、 たずねました。 |
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はい、実に面白いです! ふきくん、 気が付きましたか? 今、ふきくん が 挙げてくださった、 数々の 正義の物語の中の、 「ある共通点」に … | |
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え? 『共通点』 ?? | |
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そうです。 私は 今まで、 『生物は、自分の生存確率が 上がる場合を「得」』 『下がる場合を「損」と 感じます』 …と 説明させて いただきましたよね? | |
たしかに、 これまで 何度となく、 ミューラー や ネック は、 そのように 話しておりました。 | |
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ところが、 お気づきに なりましたか…? ふきくん。 | |
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ふきくんが 話してくださった 物語の主人公たちは、 その誰もが、 『自分の生存確率を 向上させるために 行動しているわけでない』 ことに… | |
言われて ふきは、 しばらく、 自分の話した物語について 考えていましたが… じょじょに、 「え?」 「あれ??」 と、 奇声を発しはじめました。 | |
ほ、本当ですね… どうして なんでしょう? 不思議 です… | |
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面白いねぇ。 「正義の主人公」たちって、 「誰かのために」 『悪』と 戦っては いるけど、 『自分のため』には 戦っていなかった んだね… | |
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戦えば、 「自分の命が危なくなる」 ってのに、 なんで こんな、 『DNA からしたら 矛盾してること』 を するんだろ? 頭 オカシイ のかな? | |
ネック は『理由』を 知っていそうな 気配なのですが、 そんな 憎まれ口をきいて、 あえて核心を はぐらかすのでした。 | |
この 矛盾、 どういう事なんでしょうね、 ミューラーさん? やっぱり、「物語」は ただの 作りモノだから、 『 DNA の 生存本能 』 で 見ると メチャクチャな、 ただの 絵空事 って ことなんですか? | |
しかし ミューラー は、 ふき の 疑問に ニッコリと ほほえんで 首をふりました。 |
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いいえ、ふきくん。 こうした物語が 本当に 単なる 「思い付きだけの 絵空事」 だったら、 時代を越えて 人々に愛されることも 無かった はずです。 | |
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『 DNA の 生存本能 』 『 自己保存の 欲求 』 だけでは 説明できない、 『 高度な生物だけが 持つことのできる、 ある特殊な視点 』が、 こうした 「正義」の物語 の中には、 内包されているのです。 | |
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それゆえに 読み手の心の底の 共感 を呼び、 時代を越えて、 人々に愛されつづけている のではないでしょうか? | |
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『 高度な生物だけが、 持っている視点 』 … というのは? | |
ふき が、 当然の疑問を 口にしました。 | |
『 高度な生物 』… つまり、 この地球上では、 ふきくんたち 『人間さん』を含む、 ごく一部の生物 しか 持てない、 物の見方 のことです。 | |
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『 正義の物語 』が 語り継がれる理由の1つは、 人間さんたちが、 その物語の主人公 を 通じて、 「自分たちの 進むべき道」 「未来の 自分たちの姿」 を 垣間見ているから かもしれません… | |
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ぼ、僕ら 人間が、 『正義の主人公』を通して 見ているもの って… 一体 なんなんですか…?? | |
この ふき の 問いに、 しかし ミューラー は、 ニッコリと ほほえむだけで、 答えては くれませんでした。 ただ、 『 後日、必ず お話しします 』 という、 約束 だけを残して… |