■ 「お金」 の価値は、
変動させられてしまう (2/2)






たとえば ふき くん が、
30才の時点で
1億円を貯金したとしますね。


今の時代の
「30才で1億円の貯金」 といえば、

贅沢をしなければ、
ギリギリ一生暮らしていけるほどの、
シッカリした大金です。



ところがこれが、30年後、
ふき くんが定年になった頃に、

「世の中のお金の価値が変動して、
10分の1 になっていた」…

としたら、どうなるでしょう?








「どうなるでしょう」 も
へったくれもありません。



1億円 が 1000万円 に
なってしまったも同じです。



今の世の中、1年間暮らすのに
数100万円ほどは必要なので、

1000万という貯金では、
せいぜい5年もてば
良いほうではないでしょうか…?




つまり、年金を考えなければ、
定年して5年後には、
無一文になってしまう
わけです。


そんな自分を想像して、
ふき は、ぞっ と震えあがりました。









もちろん、10倍もの価値変動が
簡単に起こるとは思えませんが、

先ほどの ミューラー のたとえは、
「1億円 貯めたとして」
という前提で語られています。



普通なら、2000万円ぐらい貯めるのも
難しいでしょう。



2000万円が、1000万円の価値に下がるのには、
ほんの2倍の価値変動 で事足りてしまいます。



それは、結構 簡単に起こりうる事態
と言えるのではないでしょうか?






そして、先ほど話したとおり、

そうした事態が、近年の日本で、
実際に起きている
のです。





「今の貯金」 は、

必ずしも 『将来の保障』 に
なってくれるとは限らない
という事実が、

ふき にも、ジワジワと
理解できてきました。











さらに困ったことには、
そうした 「お金の価値の変動」 は、

世界経済の動きや、
政治家さんたちの考え・都合によって
起こってくるものなので、

『個人には どうしようもない』

んですよね…





「貯められる」 ことが、
お金の利便性の1つなのに、

その価値が必ずしも、
長期的に約束されたものではない…



という点が、

『お金』 という道具の矛盾であり、
難しさではないでしょうか?








ようは、あんたが必死こいて貯金しても、

どこぞの誰かさんの都合1つ で、
価値を変えられちゃうこともあるのが
「お金」 ってものらしいよ?


ご愁傷さまだね、ふき








そんな ネック の言葉も
耳に入らないのか、

ふき は震える手で、
預金通帳を開きました。




先ほどまであんなに輝いていた
通帳の預金額が、

一瞬 ただの数字の羅列
見えたような気がして、


ふき は あわてて目をつぶり、
頭を強くふりました。










あと、ミューラー が言わなかったから
あたしが付け加えたげるけどね…


『お金で何でも買えるわけじゃない』

てことも、

当然だけど おぼえときなさいよ?




あんた前に、
自分で言ってたじゃん。

『若さは お金で買えない!』って。







そう。

たしかに ふき は、
そう言いました。




ふき としては、

別の意味で言った
言葉だったのですが…







必死こいて お金貯めて、

定年になって、ようやく
働かなくても よくなった…


でも、お年寄りになった あんたは、
そのあと、そのお金で何するつもり
なの?



多分、できることは限られてくると思うよ?

どんなに大金つんでも、時間 は…

「若さ」 は もう、
元には戻んないんだからね。







そんなふうに、
ちょっと イジわるく言った
ネック でしたが…




ふき の丸まった寂しそうな
背中に気がついて、


  


「…ふん」 と きまり悪そうに
横を向いてしまいました。











ただ、ふき くん…






そんな空気をとりなすように、

ミューラー は言いました。







お金は、ただ持っているだけでは
幸せになるのは難しいですが、

それを賢く使用することによって、
「幸せに生きれる確率」 を
上げることができる物…



「人生の本目的・最終目標」
ではないですが、

そこに到るための、
『手段や道具』 『可能性』 …


と考えてみては どうでしょう?






その通帳の お金は、

ふき くん が、ふき くん らしい人生を
歩むための 『可能性の1つ』 です。



それを 「どのタイミング」 で、
「どう活かすか?」…

それは、これからの ふき くん次第
なのではないでしょうか?









そんなふうに言われて、
もう一度通帳を開いた ふき の顔に、

少しだけ 光がともったように見えました






ネック は、ほっとした顔で、
トンビ紳士の横腹を
前足でテンテンとつつき、

その顔を見上げて
ニヤリとほほえみます。






ミューラー は照れくさそうに、
羽で自分の頭をかいたのでした。








お金は、それを持つこと自体が
幸せなのではありません


また、絶対の価値でもありません



それを いかに使うかで、
自分の 「生き方・幸せ」 を
ある程度 左右できる、

「道具・可能性 の1つ」 なのです。





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